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ピアノ・ソナタ ロ短調  

解説

1853年2月に完成した後シューマンから「ハ長調幻想曲」を送られた返礼として、療養所で生活を送っていたシューマンに捧げられた。

楽曲の雄大な規模と詩的な気高さ、リストの代名詞でもある恐るべき難技巧が随所に散りばめられた内容から、ワイマール時代のリストの円熟ぶりをみることができる作品。しかしワーグナーが絶賛したこのソナタは、評論家たちから激しい非難と攻撃の血祭りにあげられてしまう。

さらに1857年に弟子のハンス・フォン・ビューローによってこの曲が初演されたのがきっかけとなって、賛否両論の大論争が展開された。こうした論争が起こったのも、この曲がソナタとしては全く破格な形で書かれ、まさに前衛的な、とびきり新しい内容をもつ楽曲であったためである。

構成

このソナタは単一楽章、つまり全曲が中断なしに演奏されるひとつの楽章によって構成され、リスト自身の創案による交響詩のように、特定の基本動機の繰り返される再現と変形によって、極めて大掛かりな拡がりを見せながら展開されていく。

大きくは3部に分かれていて、それが呈示、展開、再現という、ソナタ形式の3部分にも当てはまる。また、中間の展開部に当たるパートはアダージョのような楽想がとられているため、これを第2楽章とする3楽章のソナタとも考えることが出来る。

激しく転調する提示部は、必要に応じてロ短調とニ長調にもとづいていることが分かる。そして嬰へ長調のアンダンテでは通常の4分の3、ないし8分の6拍子はとらないにしても、スケルツォ的な性格は持っている。再現パートではそれまで主調で現れる機会の少なかった全ての主題が主調で現れる。

詳細

提示部
このソナタには多くの展開がある。主題そのものが単に装いを変えて現れる代わりに、様々な結合をみせている。第5主題の提示部に続いて転調部が現れるが、明確な形はとらなくて、主要展開部と間違えられやすい。それが大げさに第1主題へと導かれるために、再現部が始まったと錯覚してしまう。第2主題は再現部と主張を確認するためにロ短調で現れるものと期待するが、主題は間違った調性のへ短調で形作られる。実はここは再現部ではなくレチタティーヴォなのだ。第4主題の冒頭部が冷たく堂々と響き、提示部の推進力は停止させられる。

展開部
リストは聞き手の期待を裏切って嬰へ長調の意外性と新しい第6主題の登場でスタートする。やがて嬰へ長調は消えレチタティーヴォが雄弁な語り口を引き継ぐ。そして到達する素晴らしいクライマックスは、第6主題の冒頭部と主題的には同じだが、力学的には逆の形をとって全てを包み込む。
フガートの導入でソナタ冒頭部の主題がもう一度実態を持ち、第3展開とスケルツォの全ては再現部を予兆する。

再現部
第2、第3主題が融合するところでロ短調の調性にたどりつき、もはやここから遠く離れることはない。光=ロ長調と闇=ロ短調が互いに戦い、最後には光が勝利を収める。第4、第5主題だけでなく、2つの擬似再現部も主張へと戻され、ロ長調の支配をオクターヴの旋律とヴィヴラートのついた反復和音が強調する。
コーダはロ長調で静かな平和を連れ戻す。平和が訪れ第1主題が最後に姿をみせ、そして左手の音で全ての緊張が解かれるのだ。

愛聴盤

ジャン・フランソワ・エッセール(ピアノ)、ヴリュノ・パスキエ(ヴィオラ)

録音1989年 アルル

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