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交響曲 第10番 嬰へ調

作曲:1910〜11年、第1楽章フルスコア一応完成、第3、第5楽章ショートスコアほぼ完成  
初演:1924年6月、1、3楽章(クルシェネ版)  1960年、全楽章(クック版)
出版:1924年(草稿のファクシミリ版)、 1976年(クック補筆完成版)、ロンドンのフェイバー社


「第10交響曲」はマーラーの生涯の最後の10ヶ月の創作活動における未完の結果である。1910年に「第9交響曲」の作曲を完了してからすぐに、この曲にとりかかっている。

作品は5楽章の構想で「煉獄」と題された第3楽章が頂点となる予定だった。
マーラーは自分の死後、この作品のスケッチが焼却されることを望んでいたというが、アルマはそれをずっと保管していて、1924年に写真版の形で公表した。

現在「第10交響曲」といえば、第1楽章のアダージョのみをさすのが普通である。補筆完成版はあくまでも「マーラーが書き残した断片」を、演奏できる形にまとめたものと考えるのが妥当だろう。




作品復元の過程

マーラーの死後3年目に第1次世界大戦が始まったこともあるが、マーラーの作品が世間により認知されるには時間が必要だとアルマは考えていた。
結果として作品の発表は遅れ、まず1920年代初めに年にアダージョとプルガトリオの演奏会用フルスコアが完成する。1924年には草稿の大部分が出版された。

作品完成の気運は高まるものの、特に進展のないまま時が過ぎる。

1959年にマーラー生誕100年祭の企画がイギリスBBCで持ち上がり、デリック・クックにより補筆完成されたものが、1960年にBBCで放送された。それは草稿の一部に欠損したところがあり、アルマの怒りをかう。その後、演奏を耳にして考えを変えたアルマの前面協力により、欠損していた部分の草稿がクックに渡され、1964年に修正版が演奏される。

その後も細かい修正は続けられ、1976年になって<クック第2版>として初めての全曲出版がなされ、クックによる補筆版は一応の完成となった。


第1楽章 

マーラー自身によって完成に近いところまで手がけられた、唯一の楽章。通常はアダージョと呼ばれているが、途中にアンダンテも置かれている。
始まりはヴィオラが奏でる主題

 ヴィオラの主題
 


 
アダージョ開始部の旋律
 

怪奇的な雰囲気を漂わせながら、曲はカタストロフと呼ばれる9個の音からなる和音へとつながっていく。

 
カタストロフ(16:00)
 

第2楽章 

草稿が欠損していて1960年にBBCで放送されたときには、演奏できる状態ではなかった楽章。

第3楽章 

この作品の中心となるはずだった第3楽章だが、復元版では演奏時間が4分程度しかない。マーラーの交響曲の中ではもっとも短い楽章。

手稿の表紙には「インフェルノ(地獄)」と書かれていた。
曲は「子供の不思議な角笛」から「この世の生活」がそっくり引用される。

第4楽章

手稿に「悪魔が私と踊る」とあるように、デモーニッシュな7つの音の和音で始まる。マーラーはこの楽章の配置を再三に渡り変更し、迷っていた。

第5楽章

第4楽章から第5楽章へは連続している。大太鼓のみによる出だしが印象的。

ショートスコアはほぼ完成していたので、マーラーの思想は伝わってくる。
他の楽章から旋律の引用がされていて、あたかも彼自身の人生の回想のようにすら聞こえてしまう。


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