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リュッケルトの詩による5つの歌

作曲:1901〜02年
初演:1905年1月、ウィーンの小ホール(1〜4曲)
初版:1905年ピアノ譜、オーケストラ譜

「亡き子をしのぶ歌」と平行して、マーラーは同じく詩人リュッケルトの詩にもとづく5曲の歌曲を作曲した。

しかしこの曲集は連作歌曲ではなく、出版の曲順もマーラーの意図したものではないため、「リュッケルトの詩による5つの歌曲」とはあくまでも便宜的なものであって、この5つの歌曲を総括的に呼ぶ正式なタイトルは存在しない。

「リュッケルトの詩による歌」はこれまでのマーラーの歌曲とはまったく違った一面を示している。拡大された構成や色彩感が影をひそめて、切り詰めた素材を扱ったとてもシンプルな様式になっている。見方によってはとても地味な作品集ともいえるかもしれない。



第1曲<僕の歌をのぞき見しないで> 

作っている最中の曲をのぞき見される、一種の後ろめたさを歌ったもの。
5曲のなかでは最初に書かれた。

‘僕の歌をのぞき見しないで!悪事の現場を押さえられたみたいだ
作品が出来る過程に立ち入られるのは、僕自身にだって許さないでしょう’


詩の内容は恋人アルマとのやりとりのようにも聞こえる。それが選択された理由かもしれない。

‘菩提樹の香りはなんて愛らしいんだろう
この菩提樹の若枝はキミがやさしく折り取ったものだ’

第2曲<ほのかな香りを>

恋人から贈った菩提樹の香りによせて、愛の想いを歌う抒情詩。

‘僕は柔らかな香りをかいだ
愛らしい手が贈ってくれた菩提樹が部屋におかれたのだ’


第2節のはじめにピアノが声を助けて美しい旋律を歌う。この旋律は後にも登場し、静かなアルペジオで曲は終わる。

‘菩提樹の香りの中に、
僕はひそかにやさしい愛の香りをかぐんだ’

第3曲<私はこの世に忘れられて> 

この曲集の中では名曲として知られる曲。詩の内容はどこかマーラーの心に触れているよう。

‘私はこの世から姿を消してしまった。
かつてあれ程に時間を過ごしたところから’


朗読風の旋律が淡々と歌われる。夢見るような美しい音楽で、「第5交響曲」の≪アダージェット≫や「亡き子をしのぶ歌」の≪いま私には分かるのだ≫と関連がある。

‘でも私は生きている、1人私の王国のなかで
私の夢のなかで、私の夢のなかで’

第4曲<真夜中に> 

真夜中の心中の苦悩が切々と歌われ、最後には全てを神にゆだねようという悟りにいたる内容。
この曲の主要モチーフは、「大地の歌」2楽章の全奏でオーボエの吹く印象的なモチーフにとてもよく似ている。

‘真夜中に僕は目を覚まして天を仰いだ
群れをなす星のどれひとつとして、
私に微笑んではくれなかった’


最後の節ではしだいに力を増してゆき、声は2倍に伸びて強烈な神への賛歌となる。

‘真夜中に僕は自分の力を神にゆだねた
主よ、地上の生と死とを
あなたは常にみはっておられる


第5曲<美しさゆえに愛するなら> 

情熱的なラブソング。

‘私が美しいから愛するというなら、愛してくださらなくてかまいません
太陽を愛せばいいのです。黄金の神をもっているのだから’

このような詩の内容が、20歳近く若いアルマと結婚したばかりのマーラーを刺激したのかもしれない。

‘愛のゆえに愛するのでしたら、どうか私を愛してちょうだい
いつまでも愛して。私はアナタを永久に愛しましから’


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