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嘆きの歌

作曲:1878〜80年(初稿3部構成)、1892〜93(改定2、3部)
初演:1901年2月(改定2、3部)、ウィーンでマーラー自身の指揮によりおこなわれた
出版:1902年(改定2、3部)、ウィーンのヴァインベルガー社


マーラー20歳のときのカンタータ。彼の作曲家としての出発点となる作品。このころすでに楽劇と交響曲の書法をマスターしていたことが、十分に示されている。はじめは歌劇として計画されていたが、それは始めの段階で棄却されてしまった。

ウィーン音楽院時代にこの作品をベートーベン賞に応募したが、受賞はならなかった。2年がかりの作品が楽壇の主導者たちに顧みられなかったことは、マーラーにとってショックだっようで、「あそこで賞を取っていれば僕の障害は違ったものになっていただろう」とまで語っている。


当初は3部作だったが、後に大幅に改定し第1部をカットしている。第1部の公開が長い間されなかったこと、巨大な編成などから演奏の機会は少ないが、なかなかの佳曲であり評価の気運も高まってきている。


作品成立史


多くの素材を参考にしながらマーラー自身が台本を作成し、1876年3月に完成する。歌劇として構想された説には否定的な見解もあるが、未完に終わった歌劇から部分的な引用が行われた可能性は高い。

コンテストに落選し発表の機会はなくなっても、作品の改定は続けられ、作曲から20年以上たった1901年に自身の手で初演が行われた。しかし第1部はカットされ、演奏者の規模も予算的な理由から縮小された。

第1部≪森のメルヘン≫はマーラーの義弟の息子アルフレート・ロゼーの所有となり、1935年に3部作の形での初演をウィーン放送で行った。彼はその後、この楽譜を私蔵したまま約34年間公開することはなかった。

その後アメリカ議会図書館の保管となり、コネチカット州のマーシャル・オズボーンなる人物の所有となった。3部からなる「嘆きの歌」の初演権はニューヘブン交響楽団のものとなり、1970年にフランク・グリーフ指揮で行われた。


第1部≪森のメルヘン≫ 

誇り高い女王が、森の中に咲く赤い花を見つけてきたものと結婚し、王座につけると公言する。2人の兄弟がそれを探しにでかける。心優しい弟は赤い花を見つけ出し、帽子にさして一寝入りする。それをみた邪悪な性格の兄は弟を刺し殺して花を奪い去り、女王と結婚する権利を主張する。弟の亡骸は柳の下に埋められる。


ここで表現される森はまだ開拓されるまえの、民話や伝説の舞台となっている幻想的な場所である。
金管が弱く森の雰囲気を吹き鳴らし(1_1)、114小節に及ぶ序奏が始まる。これが案内役となって、殺害と悲劇の予言、森の鳥の声、婚礼のファンファーレといった、様々な主題を提示する。

 
 1_1
 

  悲劇と殺害の予言
 

  婚礼のファンファーレ
 

テノールが希望に満ちた感じで「昔、美しい一人の女王がこの地を統べ、赤い花を見つけた者と結婚すると伝えた」と歌いだす(1_2)。

 
 1_2
 


2人の兄弟が森に向かい、兄の凶暴な性格を現す殺害の動機が流れ、弟が花を見つける場面では幸福の音楽がくる。

音楽はここから暖急明暗を繰り返して緊張を高め、兄を抜く場面で一気に盛り上がる。兄が剣を抜く場面でリズムが荒れ狂い頂点に達するが、弟殺しの瞬間そのものは明確に描かれず、静けさの中で象徴的に扱われる。

第2部≪吟遊詩人≫ 

森の中、1人の吟遊詩人が通りがかり白く輝く骨を見つけ出す。彼はそれをフルートに作り変え試しに吹いてみた。フルートは弟殺しの兄のことを物語り、吟遊詩人はそれを女王に伝えるため、旅を続ける。
 

めまぐるしい展開の第1部に対して、第2部では行進曲のリズム(2_1)を軸とし、展開も安定している。 
  2_1
 


ここでも111小節の前奏があり、吟遊詩人の動機などが新たに登場。
 

  吟遊詩人の動機
 


弟の眠る柳の情景が悲しげに歌われる(2_2)。

  2_2
 


続いて詩人が登場。骨を見つけて笛に仕上げる。
「可能であれば少年の声」と指定されたアルト独唱で、笛が殺人を物語る。詩人はあちこちで笛を吹き、城館行きを決意。
殺人の動機が激しく高揚する。

第3部≪婚礼の出来事≫ 

城館では女王と、新しい王となった兄の婚礼が行われようとしていた。吟遊詩人は城内に入るとフルートを取り出して、殺人の物語を吹き鳴らす。怒った王は笛を取り上げてみずから吹いてみる。フルートは殺されたものの悲しみをうたう。女王はショックで倒れ、客人は逃げ出し、城館は跡形もなく崩れ去る。

長い前奏はなく、城館ではじめられる祝宴のファンファーレが、ワーグナー風の響きで(3_
1)鳴り渡る。 

  3_1
 


王が追求される場面では弟の死の場面の音楽が回想される。笛の物語の歌詞と旋律は第2部と同じ。悲壮感は増していき、ブラスが重なって王の狂乱は頂点となり、第1部の弟殺しの場面がオーバーラップする。合唱が高揚して城が崩れ落ちる様を歌い、静寂が訪れる。
テノール独唱が「婚礼の場はどうなってしまったのか?」と問い、ソプラノ独唱が「おお、いたましい!」と歌って曲は終わる。


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