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子供の不思議な角笛

作曲:1892〜1891年  
出版:1899年1〜12曲

1887年頃から「角笛」の詩を歌詞とするピアノ曲を書いていたマーラーは、1892年から1899年にかけて作曲した12曲を集めて、<子供の不思議な角笛>として出版した。

その後、2曲の追加、交響曲への転用などが行われる。この歌曲集と交響曲2〜4番とは特に密接なやりとりがあるため、これら3曲は「角笛交響曲」とも呼ばれている。

<死んだ鼓手>と<少年鼓手>の2曲は<リュッケルトによる5つの歌曲>と組み合わせて<最後の7曲>としてくくられたこともある。





≪子供の不思議な角笛≫民話詩集 

ドイツロマン主義の時代、民謡は創造力の源泉として考えられていた。
そしてアルニムとブレンターノによって約600編の民謡が収集され、1806〜08年に3巻に分かれた民謡集≪子供の不思議な角笛≫として出版された。

この民話詩集はシューマン、ブラームス、シェーンベルクなどにも霊感を与えたが、もっともこの素材を頻繁に活用した作曲家はマーラーでかのある。彼は「若き日の歌」でも9曲で、ここから詩を採用している。

1899年初版 

≪子供の思議な角笛≫民謡詩集から歌詞を引用して作曲され、12曲のピアノ伴奏曲集とオーケストラ版奏曲集の両方の形で1899年に出版された。
オーケストラ化はマーラー自身がおこなった。

「交響曲第2番」第4楽章に転用されたためにはずされていた<原光>は、ここでは収められている。

第1曲<番兵の歌>

戦場で夜1人で見張りに立つ番兵の脳裏に、恋人の幻影が浮かぶ。


規律づくめの軍隊の音楽と、甘い幻想的な音楽が入れ替わり、転調操作が絶妙なこうかをあげている。
恋人との対話形式で歌われることもある。

第2曲<むだな骨折り>

手をつくして男を誘う女と、同じ返事を繰り返すだけでほとんど相手にしない男との、コミカルとシニカルの合わさった会話。

第3曲<不幸のときの慰め>

出征する兵士と恋人が、互いがいなくとも生きていけると虚勢をはるあざけりあい。

第4曲<誰がこの歌を作ったの?>

「明るく陽気に」と指定された、愛らしい恋の歌。

第5曲<この世の生活>

パンをねだる子供に、「明日麦を刈るから」といって散々またせ、パンが焼けたときには子供は餓死していた…


「天上の生活」=「3人の天使は歌った」と対になる曲として作曲された。
この世の惨めな生活がブラック・ユーモア風に描かれている。

「第10交響曲」第3楽章の母体になったともいわれる。

第6曲<魚に説教するパトバのアントニオ>

魚たちは聖アントニオの声に耳を傾けるが、聞き終わったとたんその内容を忘れてしまう…


「交響曲第2番」第3楽章と共通のメロディーを持っていて、この2曲はほとんど同時期に作曲された。

第7曲<ラインの小伝説>

恋人にあえない女性がライン川に指輪を投げて、それを飲んだ魚を王様が食べ、出てきた指輪を元の持ち主である女の恋人に返し、恋人はそれを届けに女性のもとへ行く。


これは指輪を餌に遠く離れた恋人を誘い出す、乙女の策略を歌ったもの。

第8曲<塔の中の囚人の歌>

塔に幽閉された男が、「たとへ身は囚われても思想は自由だ」と主張していると、恋人の幻影が現れて外の世界の素晴らしさを説く。


男の葛藤が、軍隊調と舞曲調の2種の音楽の交代によって歌われる。

第9曲<トランペットが美しく響くところ>

戦場で倒れた兵士の霊が恋人に別れを告げにくる…


マーラーの全歌曲のなかでも、とりわけ印象的な絶唱。
響曲第5番」第3楽章のトリオとも関連がある。

第10曲<高き知性を讃えて>

カッコーと鶯の、ロバを審判にしての喉自慢。


ユーモラスな民謡風の旋律は、「第5交響曲」の終楽章に応用された。マーラーがつけた最初の題は、皮肉がこめられた「批評家への賛辞」だった。

第11曲<3人の天使は歌った>

最後の晩餐で聖ペテロはイエスに「あなたは私を三度知らないというだろう」と告げられる。そのとおりになり苦悩するペテロ…


「交響曲第3番」第7楽章として作曲され、1995年に一度は完成しているが、最終的にはずされる。
そして1889年の<子供の不思議な角笛>ピアノ版初版出版時に、第11曲として採用された。
その後、オーケストラ版が「交響曲第4番」第4楽章に転用されたため、この曲は<子供の不思議な角笛>歌曲集からはずして考えられることが多い。

第12曲<原光>

苦境のさなかにいる人間の、再び神のもとに戻りたいという気持ち…


14曲中最後に作られた作品。処刑される少年の辞世の歌。
歌曲集の中でも最高の出来であるが、「響曲第2番」第4楽章として転用されたため、<3人の天使は歌った>同様、CDでは歌曲集からはずされることが多い。


第13曲<死んだ鼓手(レヴェルデ)>

戦争で敵の弾に倒れ、味方からも見放された鼓手は、死に瀕してもなお太鼓の起床合図を送る。すると死んだ兵士たちが起き上がり敵に襲い掛かり、故郷の町に幻の凱旋を遂げる…


原題の「レヴェルデ」は起床合図のこと。
中間部の死者が敵に襲い掛かる音楽は、「響曲第3番」第1楽章を応用している。

第14曲<少年鼓手>

戦場で捕らえられ、処刑される少年の辞世の詩…


前半で軍隊への皮肉が表現され、後半で生への告別が歌われる。
後半は「響曲第5番」第1、第2楽章と深い関係がある。
器楽の手法をみごとに活用した傑作。


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