出会いの直後、アルマに送った詩

ベルリンのホテルから

回答を求めて

ドレスデンから20ページの手紙

演奏旅行先からの手紙1

演奏旅行先からの手紙2



マーラーからの手紙

マーラーからアルマに送った手紙は多数存在する。そのなかで特に重要なのはドレスデンから20ページにわたって書き綴ったものだろう。ここには、マーラーの驕慢で自己中心的な部分がすべて含まれている。このような強引な手紙に対してアルマは日記に記している。
「私たちはやっと離れ離れになった。なぜこんなひどい取り決めがあるのだろう?欲望が私たちを焼き尽くすようだ。彼は胸をあらわにして、私はその心臓の上に手をあてがう。私の身体は彼のものだという感じがする…」

出会いの直後、アルマに送った詩

(1901年11月)


一晩のうちにそれはやってきた。こんなことは想像もしなかった
対位法と楽式の研究が私に重くのしかかる

そんなわけでたった一晩のうちにそれらは私に対し力を持った
たとえあらゆる声がひとつになって、これから先同じ道を歩むとしても

一晩のうちにそれはやってきた。私は眠れずに過ごした
それからというものノックの音がすると、私はそちらに目を向ける

「誓ってほしい!」この言葉が私を捕らえてつきまとう
あらゆる種類のカノンの間で!ドアを見つめて私は待っている

ベルリンのホテルから


いま、私は自分にふさわしくない野心を持っています。成功して認められるといった、実際は何の意味もないもの全てが欲しいのです。キミに名誉を与えたいからです。
もちろん以前から野心はありましたが、同業者から与えられる栄誉にがっついたことはありません。とはいえ彼らに評価されるために戦ってきたのは事実です。これが、これから先の私の最大目標になるでしょう。そのためにもキミは私のそばにいるべきなのです。
衆の喝采は諦めなければならないかもしれません。彼らは必ずしも私を応援してはくれないでしょう。私が獲得してきた尊敬はたぶん、何かしら近寄りがたいものへの予感に基づいているように思われます。

私が話しているのは、「オーケストラ指揮者」としての活動についてではありません。これは副次的な能力であり、勲章でしかありません。それを理解した上で私についてきてくれますか?私とあらゆる試練を耐え忍ぶことができますか?恥辱の衣をまとい、歓喜とともにこの十字架を背負うことが。

回答を求めて


アルマ、お願いだから私が書いたことを忘れないでください。キミに伝えたいことをキミが理解してくれたかどうか知りたい。野心について書いた手紙の返事をもらいたい。

ドレスデンから20ページの手紙

(1902年12月)


今日、この重苦しい心のうちをキミに書こうと思います。結局キミに苦労をかけることになりそうです。それは分かっていますが私にはそれ以外できません。昨日のキミの手紙によって目が覚めました。もしも2人ともが幸せになるためには、私たちの関係について明確にしておかなくてはならないでしょう。
キミは「あなたが望むとおりの者、あなたが必要とする者になります」と書いています。この言葉で心から幸福な気分に包まれ、信頼感に満たされました。

キミにとって個性とはなんでしょう。いつだったか、キミに人はそれぞれ特殊なところがあり、それを言葉で特定することは出来ないといったのを覚えていますか?人にはそれぞれ個性があるのです。戦いや苦しみからしか獲得できない個性もあります。それは男性にのみ見出すことが出来ます。自分自身にしっかり根を下ろした男たちのみが確固たる個性を保有し、それを成長させていきます。成長しない者が個性を持つなどは不可能でしょう。

キミは魅力的な人物で、豊かな才能があり、自分の価値に早くから目覚めているとしても、それはキミの個性にとってはなんの意味もありません。キミは私にとってのアルマであり、キミがなれるのは私の人生で最高の人であり、私を助ける忠実な伴侶であり、私のガードであり、私の憩いの場であることです。この憩いの場で私は自分自身を鍛えましょう。全てはたった一言で言えます。あらゆる表現を超えた気高いことば
≪私の妻≫
がそれです。

長い放浪の末に私はキミにたどり着いたのです。アルマ!考えて御覧なさい。キミの人生は混乱した精神の仲間たちによって脅かされてきました。彼らは暗がりの中で謝った道を指し示し、キミをひどい目にあわせます。彼らはキミへ絶えず干渉しようとしています。なぜならキミはあまりに魅力的なので、彼らはキミの美しさに敬意を払っているのです。自分を少しでも醜いと想像してごらんなさい。キミはみんなが望み、キミの中に存在しているものを自慢し始めていました。

キミはあまりに美しく、挑発的であると同時にまったく無防備でした。それはまじめな論争をしないからでしょう。男たちは尊大であり、キミはこの尊大さから逃れることはできないのです。

私の不安について書いておきましょう。私はキミの知らない、君が理解できない音楽がキミの音楽と対立するというおかしな立場に立たされています。私の音楽を正しくしてもらわなければなりません。私のことを自惚れやだと思っていませんか?私を信じて欲しい。私の生涯で初めて、私の音楽を理解できない相手と話をするのです。
これから先、私の音楽をキミの音楽と考えられないでしょうか?
ここでキミの音楽について話したくはありません。いつか話しましょう。キミが思い描いている作曲家の妻というのは、どんな人ですか?奇妙なライバル関係が二人にとってどれほどくだらないことか、想像したことがありますか?キミは型通りに家事をやることに対して心配のようです。それがなんでしょう。誤解しないでください。夫婦として妻が家事や夫の世話をしているのに、私が妻をたんなる気晴らしとして扱うなどとは思わないで欲しい。もし私たちが幸福になりたいなら、キミは
私が必要とする人
でなければならないし、私の同士ではなく私の妻でなければなりません。それはキミの人生に介入することになりますか?キミが私と私の音楽のためにキミの音楽を捨てたとしたら、キミが過ごすはずのすてきな時間を捨てることになると考えていませんか?

私たちの人生のためにはっきりさせておくべきでしょう。私がキミに対して「これから仕事をするよ」といったとき、この仕事とはなんでしょう?作曲ですか?キミの個人的な楽しみか、それとも人類共通の財産を豊かにすることでしょうか?

キミにはこれから先たった一つの仕事しかありません。私を幸福にすることです。
もちろん私が幸福になるためには、キミ自身も幸せでなければならないことは分かっています。しかしこのドラマの中で二人の役は的確に分けられなければなりません。「作曲家」=「仕事をする人」の役を私が演じ、キミの役は「愛らしい伴侶、理解ある同士」です。
キミはそれに満足できますか?私の要求はたくさんあります。なぜなら、与えるべきもの、これから先与えられるべきものが分かっているからです。

キミのツェムリンスキーに対する態度は冷たく無理解に見えますが、キミは彼を愛していたのですか?彼が偉大で男らしく見えるのは、キミのそばにいて親切で寡黙であるからではないですか?キミは彼を愛していたというの本当ですか?私がもしその場にいたらどうしたらいいのだろう?

私は邪心なしにキミに私の魂を捧げ、私の人生を献じます。私たちの間に愛の策略などあるはずがない。私が何を望みキミに何を期待しているか、私がキミに何を与えられキミがいかにあるべきか、キミに知って欲しいのです。キミがいかにあるべきかキミに知ってほしい。
表面的なものは全て破棄して私にキミを与えてほしい。
キミの今後の人生を細部に至るまで、私の要求通りにしてほしい。
もしキミが妻だったらそうするように、私は愛するもののために生涯と幸福を犠牲にすることが出来ます。

大げさな言葉でなんとしても私のことを分かってもらいたかった。アルマ、土曜日にお目にかかる前にこの手紙の返事がいただければ幸いです。使いの使者をおくるので、どうか用意しておいてください。

演奏旅行先からの手紙1

(1903年4月)


私はキミにほんの少しのことしか教えなかったようだ。もしキミが無意味に自分を見失ったら、彼らはキミのためにどんな役にたつのかね。内的自由をもたない人間にとって独立は空しい言葉だ。しかし人間は自分でそこにたどり着くしかない。だから少しは私を愛しておくれ。そしてキミ自身の教養をはぐくむことを考えなさい。

演奏旅行先からの手紙2

(1903年4月)


人間は常に自分がもっているものの中で、最良のものを引き出さなくてはならない。世の中の最悪の部分を考えて、自分たちが抱えている憂鬱の発散は我慢しなくてはならない。私もそういうことをしなかったら、毎日泣いたり苦しんだりして過ごして、ニシンのようにやせ細って帰宅するかもしれない。自分を暖める場所も知らず、わずかな金を得るためにこうして世界中を旅することは、私にとって少しも楽しいことではない。



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